新モデルが出てもスーツケースの性能は頭打ちなのです
「あまりの軽さにビックリ!昔に買ったスーツケースとの重さの差に驚きました!!」
最近は、ショップにいただいたレビューに上のようなお声が目立ちます。
購入されたスーツケースについてのレビューで、近年多いのは軽さについての驚きの声です。
樹脂製のスーツケースが世に出てから半世紀近くが経ちましたが、スーツケースの性能は一貫して進歩を続けてきました。
昔の分厚く重いスーツケースから買い替えた方は、現在のスーツケースの軽量性に驚く方が多いようです。
今、10年ぶりにスーツケースを買い換える方は、その軽量性の進化にきっと驚かれることでしょう。
しかし、今から10年後の2025年に、またスーツケースを買い換える時は、それほど驚かない可能性もあります。
というのも、軽量性も含めたスーツケースの性能の向上は、ここ5年ほど頭打ちになっています。
今後は、細かい性能の向上はあるとは思いますが、余程の技術革新がない限り、大きくスーツケースの性能が向上することはないのかもしれません。
東南アジアに生産が移った90年台~2005年頃まで
スーツケースは元々は日本の工場で生産しているメーカーがほとんどでしたが、90年台から中国を含めた東南アジアに生産が移っていきました。
2001年の中国のWTO加盟で、一気に様々な産業が中国に移っていったのは皆様も覚えがあるのではないでしょうか。
スーツケースもほとんどの世界的メーカーが中国に工場を合弁で作ったり、生産委託をしたりして、中国で製造するようになりました。
しかし、しばらくは品質が劣る製品が多かったように思います。2005年辺りまでは、一流メーカーの監修した製品でも、どこか壊れやすかったりして、イマイチな製品が多かったように思います。
一流メーカー製でも、今どきのスーツケースより強度的に劣っていたのですから、ノンブランド品はそれはそれはひどいものでした。今から思えばおもちゃのような品質のスーツケースがネットを中心に販売されていました。
この頃から比べると、今は安いスーツケースを購入しても、遥かに品質の均一化が進んでいます。安い製品でも一流メーカー製の7割程度の品質であることが多いような気がします。
昔は安物はひどい品質のものが多く、使い捨てが当たり前のような状態でした。それから比べると、安くてもそこそこ使える今のスーツケースは素晴らしいですね。
幅広く品質が安定してきた~2010年頃
中国で製造されるスーツケースの性能が一番向上したのは、2005年~2010年頃の5年間であったような気がします。
この間、一流メーカーの製品であれば、どれを購入しても大きく品質が劣るものはなくなりました。安いノンブランド品は相変わらず玉石混交でしたが。
昔は、キャスターや鍵など、スーツケースに付いているパーツ類が非常に壊れやすかったのですが、2010年頃になると破損確率が著しく低下してきました。
パーツが壊れなくなった分、今一番壊れやすいのはボディシェルです。最近の修理依頼は、ボディの陥没や割れが圧倒的です。
2010年頃になるとメーカー間の性能の差が非常に縮まって、ある程度のメーカー品を選んでおけば全く問題がないレベルにまでなってきました。
軽量化の進んだ2010年頃~
強度的に性能が頭打ちになってくると、次に軽量化が進められていきました。
それまではボディの樹脂はABSが主流でしたが、2000年にリモワがポリカーボネートをサルサに採用して、スーツケース素材としてポリカが注目されるようになります。
国内メーカーがこぞってポリカーボネートを採用し始めたのは2005年頃からですが、2010年頃までは相変わらずABSが主流でした。
しかし、軽量化の競争が進んでいった2010年頃から、ほとんどのメーカーはポリカーボネート100%のボディにシフトしました。
ポリカーボネートは、耐衝撃性に優れた樹脂であるABSよりも更に耐衝撃性に優れた樹脂です。機動隊の盾や航空機の窓などにも使われている素材です。
ポリカーボネートを使うとボディを極めて薄く作ることができて、大幅に軽量化することができるようになります。
各社こぞってどんどんボディシェルを薄くしていき、同時にパーツの軽量化や、フレームの軽量化も進め、著しく軽量化が進みました。
2008年頃からの5年間ほどで、同じ容量のスーツケースの重さは2/3程度になったのではないでしょうか。驚異的な軽量化です。
しかし、その軽量化もさすがに限界に来たのか、ここ2,3年はあまり目立った進化が見られません。
軽量化も限界で、2008年頃の今より重いスーツケースよりも、明らかに強度が劣る製品が多くなっている気がします。
性能向上は2008年位で頭打ち
軽量化は、ボディを薄くしているため、強度とトレード・オフの関係になります。
完全にトレードオフではなく、強度を10パーセント犠牲にすることで、軽量性を20パーセント向上させるような感じになりますので、進化といえば進化ですが、技術革新とはいえません。
品質面の向上も頭打ちで、右肩上がりだった性能向上は一度停滞している状態です。驚異的な新素材が採用されない限り、大幅な性能向上は期待できそうにありません。
その分、今のスーツケースが完成形であるとも言えますが。
いずれにしろ、一流メーカーのスーツケースの強度は、2008年辺りで頭打ちであったように思います。
今の一流メーカーのスーツケースも、平均20~30回程度使えばどこかしら壊れます。完璧に壊れない強度で作ると、重量が今よりもはるかに重くなってしまうので、メーカーは軽量性を重視した設計で作っているのでしょう。
非常に壊れにくく、かつ超軽量のスーツケースは、新しい新素材が採用されない限りは難しそうです。
現在のスタイルのスーツケースである限り、大幅な性能向上は当分期待できそうにありません。
スーツケースメーカーからは毎年新作モデルが出ていますが、もはやデザインの変更程度にとどまっているのが現状です。
逆に考えれば、今購入しても来年購入しても性能に大きな違いが出るとは思えませんので、今が買い時であるとも考えられます。
進化の早いスマートホンのように、買った直後に時代遅れになってしまうような製品よりも、安心して購入できる製品であるとも言えます。